さて、シンポジウムに参加した感想を述べる前に、普天間基地問題についての私のスタンスを述べましょう。
1.普天間基地の危険性は自明であり、しかも、同基地の存在する土地は「銃剣とブルドーザー」によって不法に接収されたものである。その撤去は急務である。
2.普天間基地の海兵隊は、政府が主張するような、日本を外的脅威から守る「抑止力」ではない。海兵隊はそもそも先制攻撃の際の揚陸作戦を主要任務としている。仮に外国軍が日本に侵攻しても、海兵隊は対処できない。その任務の性格からして、海兵隊は沖縄をアメリカ国外での戦争への出撃基地として使用している。
3.よって、日本としては、普天間基地の即時閉鎖・無条件撤去をアメリカに対して求めるべきである。また、同基地が日本の防衛に役立っていない以上、その移設先はアメリカが探すべきである。もしアメリカが日本国内に移設先を求めてきた場合は、民意などを踏まえて、この要求を拒否すべきである。
このシンポジウムは、今年1月18日に発表された
緊急声明の呼びかけ人が中心となって開かれたものですが、この声明と私のスタンスに若干の違いがあるために、実際のシンポでの議論がどのようなものになるか、興味を抱いて参加しました。なお、こう述べたからといって、私がこの声明に賛同しないわけではありません。時宜にかなったものだと思います。
このシンポで明らかにされた重要な点をいくつか指摘します。
第一に、環境保護の観点から、どんなものであれ県内移設は絶対に許すことはできないということです。沖縄大学学長の桜井先生の指摘によると、辺野古沖に移設する現行案では、沖縄本島の海岸に堆積する海砂の12年分の量が建設に必要だそうです。また、キャンプシュワブ陸上案の場合でも、確実に赤土が流出して周辺海域を汚染しますし、勝連半島沖を埋め立てる場合でも環境への負荷は計り知れないものがあります。
第二に、在沖海兵隊に「抑止力」はなく、むしろ在沖米軍の存在によって沖縄の人々の平和で安全な生活が脅かされているということです。これはシンポジウムの中でかなり強調されたことでした。シンポジウムの中でたびたび紹介された屋良朝博『砂上の同盟』(残念ながら私は未読です。)には、アメリカの中にでさえ、在沖海兵隊の必要性はないとする意見があると指摘されているそうです。
第三に、第二の点とも関係しますが、在日米軍再編への協力の見返りに交付金を自治体が受け取ったとしても、それはその自治体の発展には決してならないということです。交付金によって作られるのは住民にとって必ずしも必要ではないハコモノばかりで、交付金の給付がなくなると、その維持管理に莫大な費用がかかり、結局は自治体の財政赤字を招くということが指摘されました。普通、米軍再編への協力がムチで、再編交付金がアメだと受け取られがちですが、交付金はアメですらないのです。
しかし、他方で議論が不十分な点も残りました。
一つ目は、在沖米軍、そして現在の日米安保体制がもつ侵略性についてです。アメリカがなぜ冷戦が終わったにも関わらず、日本をはじめとする国々と軍事同盟を結んでいるのか(ここで、「日米同盟」という言い方は問題だという指摘を受けるかもしれませんが、アメリカ政府から見れば軍事同盟をみなされていることを述べておきます)。それは、全世界一体となったグローバルな市場秩序を維持するためです。それを乱す存在がいて、アメリカの側にそれを武力で叩き潰す条件が整えば、容赦なく戦争を仕掛けます。イラク戦争がまさにそれでした。日米安保条約を通じて、日本がそれに協力させられていていいのかという議論が必要だったと思われます。
二つ目は、より実践的な問題として、日本政府がキャンプシュワブ陸上案と勝連半島沖埋立案を出してきた下で、いかにして普天間問題の解決を図るかということです。これについては時間の関係もあったのでしょうが、情勢が緊急の行動を求めているだけに、シンポジウムへの一般参加者も交えての議論が必要だったのではないでしょうか。
それと、これは議論の内容の問題ではないのですが、参加者が若干少ないのではないかと感じました。主催者発表では300人が参加したとのことでした。会場となったホールは明らかに500人以上が収容可能なものだったので、人がまばらに感じられましたし、これだけ関心を集めている問題ですから、もっと参加者が多くても良かったのではないでしょうか。広報に問題があったのでしょうか。
何はともあれ、非常に意義のあったシンポジウムでした。知識人の呼び掛けに、一般市民がこたえる必要があるでしょう。